進藤が携帯電話で相手と楽しそうに話してるのを見て、僕も社会人の義務として持ってるべきだと思い、携帯電話を持つことにした。もちろん、まっ先に進藤に番号を知らせた。棋院で会った時、番号とアドレスをメモした紙を渡したんだが、あいにく彼女はその日、携帯を持ってなくて、自分の番号もアドレスも覚えてないということだったので、後でかけるように頼んだ。
その日、風呂上がりに携帯を見たら、さっそくメールが着ていた。僕のアドレスは進藤にしか教えていない。タイトルが『◇◇即専門◇◇』…早く読めということだろうか。僕は急いで本文を開いた。
『どこを探してもここまで人妻があからさまに求めているサイトは見つからないといっても過言ではない…
初顔合わせで「とっても激しかったです・・・」という感想メールを頂きました!
ttp://j-jin.com/niizuma/sehureclub20050505.html』
女性専門の囲碁サイトだろうか、と思わずアドレス先を見てしまった…そしてそのメールが実はいわゆる迷惑メールというやつだということに気付き、慌てて削除した。
もう、二度とこんなメールは開かないぞ、と決意を新たにしていたのに、翌日、棋院でメールに気付いてタイトルが『◇◇即H専門◇◇』だったのだが、僕にはH=進藤のイニシャルとしか思えなくて
『本当に好きなのに本人の前ではそんな姿はみせられない…
夜の生活に不満をもっている。
そんな即Hを求める人が世の中にはたくさんいます。
ttp://j-jin.com/niizuma/sehureclub20050505.html』
またうっかりアドレス先を見てしまった。その時。
「塔矢、何見てるんだ?」
「進藤!?」
「顔が赤いぞ」
「今日は暑かったから…」
「ふーん?」
まずい、今日は雨が振っていて肌寒いくらいだった。
「暑がりなんだな、塔矢は」
僕の言葉を疑いもせず、にっこり笑うその顔に、嘘を付いたのが心苦しくなった。
「進藤、このあいだ渡した携帯のナンバーだが」
「あ、今日も持ってない」
「変更することにしたから、もし登録済みなら削除しておいてくれないか」
なんだか間違い電話も多い。それはこの番号の前の持ち主のせいらしいのだが、メールアドレスもakira2003@*****じゃまずかったようだ。
「そっか、判った。そうしとく。じゃあな」
また番号を教えて、と言われなかったのがけっこう寂しかった。
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